オタク、双眼鏡を買う

 ふと思い立ってしまい、一月上旬は博多座に通っていた。そこで私は、視力の限界という問題に直面した。バイオレットの曲でウォンカ様が眼鏡を掛けている・外しているのが全く見えていなかったことにショックを受けたからである。わたしは現在進行形でウォンカ様に狂っている。両隣のオタクは大抵双眼鏡完備で席に着いており、オープニングの幕が開き、ウォンカ様が「誰にできる」と歌い出すその、だ、の音を口にする瞬間にはスチャ、という装備の効果音が聞こえてきそうなくらいの素早さで構えている。手だれのオタクである。双眼鏡のタイミングで癖ってバレるよな、って思いながらいつも見ていた。隣の人が腕を上下させるのって案外視界に入るものなのだ。博多座で隣に入ったオタクが手振りを真似したい人で、ちらちら動くものが視界に入るのって思いの外不愉快だな、と思った記憶がある。なんの顕示欲だったんだろう。踊りたいなら家でやってください。
 かつて双眼鏡を使ってみようと思ったことがある。実家にあったものだ。重いわピントが合わないわ、ほぼ見えてない眼鏡のほうがマシじゃい! となって以来、双眼鏡は眼鏡ユーザーの自分には不向きだ、と思い込んでいた。そもそも眼鏡の度すら合っていないのに。乱視がきつすぎて乱視の度数に合わせると今度は近視のレンズが合わないというどうしようもなさを抱えているからだ。そこに更にレンズを重ねるなんて! むーりー!(ダディ♡買って♡ピラミッド♡のソルト氏で読んでほしい)
 しかし眼鏡である。私のではく、ウォンカ様の眼鏡の話だ。キャンディマンの装いをしたウォンカ様はチャーリーに出会うキャンディショップで街の人にもみくちゃにされてから胸ポケットから眼鏡を取り出し、掛ける。私はウォンカ様が胸ポケットから小道具を取り出したりしまったりするのが好きだ。眼鏡姿はもちろん、好きだ。あの眼鏡姿を見たくない人がいる!?(工場の中を見たくない人がいる!?)
 コンタクトの光一さんが眼鏡をかけているのを見る機会は少ない。昔オリスタか何かでかけた眼鏡に問い合わせが殺到した話を思い出したりする。そう、オタクは自担の眼鏡が好きである。デカ主語で結構。
 自分の視力を改善することはできないため(オタクの知人からはレーシックを勧められた。大阪公演に間に合わないため丁重にお断りした)、一度は決別した双眼鏡の購入を検討しはじめた。
 ジャニーズ 舞台 双眼鏡 でのGoogle検索である。私がざっと調べたところの相場、7万円〜。チャリチョコS席は1万6千円。ざっと5公演分である。高い。自担にだったたら積めるが双眼鏡に5チャリチョコは高い。そもそもうまく使えるかわからないというのに。試しに電器屋さんに行こうにも、博多座大阪に行くために馬車馬であり難しかった。やはり双眼鏡とは縁がないな、なんて思っていたところだ。
 そしたら何故か、フェスティバルホールには双眼鏡が売っていた。博多座でも売っていたのかもしれない、人間興味がないと視界に入らないものである。倍率違いで2,200円と4,400円。迷う必要のない値段だ。フェスティバルホールと印字が入っているのも記念感があって良い。だってここは、光一さんが初めてエンターテイメントに触れたという記念の場所なのだから。

 というわけで私は4,400円を払い、双眼鏡を手に入れた。1月29日夜公演、譲っていただいた席は2階6列上手サイド。これはウォンカ様の客降りが見えないな……と覚悟した席だった(微妙には見えた)。
 結果的に、フェスティバルホールの4,400円の双眼鏡はとても良い買いものだった。何せ自担の美しいお顔が見える! 笑っていたり憮然としていたり企んでいたり、ああこんなに表情豊かに演じているのか、と新たな発見をすることができた。こんなに通っていてもなお。
 これはチャーリーとチョコレート工場という舞台にのみ適用できる、というのが難点である。もしかしたらSHOCKもいけるかもしれないけど。わたしはこの舞台で自担がどこに立ち止まりどちらの方向を向いてどのくらい動かないか、というのをほとんど把握している。ここだ! というタイミングで双眼機を装備することが可能なのだ。だから初見のコンサートや舞台では使うのが難しい気がする。そして当然なのだが、顔しか見えない。舞台の内容をほぼほぼ暗記してしまっているので今日は顔のみ堪能する公演! という気分でなら使いやすいが、ミュージカルを観ている、という高揚感はやはり薄れる。それでも自担のお顔は美しい。最高。わたしはこの人のお顔が本当にすきです。ありがとうしあわせです。
 というわけでオタクが双眼鏡を買ってみた記録である。
◾️良かったこと
・美しい顔がひたすら堪能できる
◾️気になること
・全体像は把握できない
 もっと高級な双眼鏡を導入したら変わるかもな、と思いつつ、この双眼鏡と共に千穐楽までフェスティバルホールに通い詰めます。
 
 ちなみにロゴは3公演でなくなってきた。